「朗読劇 READING WORLD ユネスコ世界記憶遺産 舞鶴への生還『約束の果て』(再演)」が9月28日、29日に東京国際フォーラム ホールAにて上演され、大盛況のうちに幕を閉じた。

 

出演は緑川光、佐久間大介、中井和哉、佐倉綾音、下野紘(28日のみ出演)、豊永利行(29日のみ出演)、井上麻里奈。脚本は山下平祐、演出・映像はヨリコジュン、オリジナル演出は松野太紀、音楽は大嶋吾郎が担当。演奏は大嶋吾郎(G,Sampler)、伊藤隆博(Key)、GRACE(Dr,Per)、クラッシャー木村(Vl)、海上自衛隊舞鶴音楽隊が行う。

 

初演は2024年に京都・舞鶴市総合文化会館で上演された。舞鶴市の舞鶴引揚記念館には、シベリア抑留と引き揚げに関する資料「舞鶴への生還 1945~1956 シベリア抑留等日本人の本国への引き揚げの記録」570点が保管されており、2015年にユネスコ世界記憶遺産に登録された。

 

本作は、第二次世界大戦後、日本最後の引揚港となった京都・舞鶴港の歴史を背景に、シベリア抑留を経験した人々の記録をもとにした物語。

 

終戦後、日本兵の大森勇作(緑川)、島津秀雄(佐久間)、竹本國春(中井)らは、故郷への帰還を意味する「ダモイ」という言葉を信じ、祖国へ帰れると思っていたが、シベリアのラーゲリ(収容所)へ送られた。そこで大森は幼なじみの沢村幸太郎(下野/豊永)と再会を果たし、「一緒に日本へ帰る」という約束を胸に励まし合う。大森勇作の妻・シズコ役を井上麻里奈、大森の孫・紗世役と語り手を佐倉綾音が担当。佐久間は島津秀雄と、その甥・和彦の二役を演じる。

 

初演が多くの人に感動を届け、「東京でも上演したい」との念願がかなっての公演となった本作。約5,000席を有し、国内の多目的ホールの中でも最高水準の音響設備を誇る会場には、開演前から大勢の観客が詰め掛けた。

 

公演は、海上自衛隊舞鶴音楽隊の指揮者がタクトを振り、幕を開けた。荘厳さの中に悲しさを漂わせる曲が生演奏で流れ、オーケストラによる圧巻の演奏が観客を物語の世界に引き込む。当日演奏された楽曲はすべて、本作のために書き下ろされた新曲だ。

 

演奏が終わるとステージが暗転。戦後、舞鶴港に引き揚げ船が到着し、「大森中尉、万歳!」の声が響き渡る。大森は妻・シズコと再会を果たすが、大森の心の中に「約束したではないですか、みなで一緒に帰ろうと…… 」など、異国で命を落とした戦友や部下たちの声がフラッシュバックする。大森が、36名の俳優からなるコロス(アンサンブル)によって演じられる「命を落とした者たち」に飲み込まれていく。

 

朗読劇にはさまざまなスタイルがあるが、本作では、音響・照明・大スクリーンを使った映像・スモークなどの演出を駆使し、臨場感のあるシーンを作り出していく。コロスたちが大ステージの上で活躍する演出は、初演の演出を担当した故・松野太紀さんの思いを受け継ぎ、さらに、今回の会場のためにパワーアップしたものとなっている。

 

導入パートが終わると、大森・島津・竹本らが貨物列車で移送される本編に移った。観客はすでに語られる物語の「重さ」を感じ取っているが、島津が貨物車の隙間から満月を見上げるシーンでは、大スクリーンに夜空の風景が映し出され、島津と大森が故郷の思い出を語り合う。牧歌的な音楽が流れ、美しい場面となったが、列車が東の果てにあるナホトカの港ではなく、西に進み続けていることに、大森が月の位置から気づく。たどり着いた先は、バイカル湖だった。

 

語り手によって、バイカル湖畔で降ろされた日本兵たちが零下30度にもなる雪山を歩かされたことや、ラーゲリに収容され、寒さと飢えの中、過酷な労働を強いられていくことが語られた。

 

大森たちは、最初に収容されたラーゲリから、医療棟が立ち並び、病気やケガをした捕虜などが次々と移送されてくる別のラーゲリへ移される。島津が命を落とす前夜、大森と竹本は少しでも寒さを凌ぐため、島津を挟み、島津の体を温めながら寝る。

 

島津が「涙が出るほど幸せな心地です」と声に出し、幼いころに父と兄に挟まれて眠った思い出を語ると、大森は「誰が父だ。兄が二人いるものと思え」と励まし、竹本は「今日だけだ。明日は貴様の服を俺が頂く」と軽口をたたく。

 

仲間思いで責任感が強い大森、繊細な青年・島津、厳しい現実を仲間とともに生き抜こうとする竹本が心を通わせていくシーンを、声優界の第一線で活躍する緑川と中井、そして、READING WORLDの朗読劇には3度目の出演となり、声優としての地位を確立しつつある佐久間が紡いでいく印象的なシーンとなった。

 

ストーリーは、日本への帰還を果たしても、亡くなった仲間たちとの約束を胸に終わらない苦しみの中で生きる大森らの姿や、大森の子や孫たちの世代が、大森らの記憶を現在へ受け継ぐ場面まで描かれる。

 

シベリアではおよそ65万人の日本人が抑留され、6万人近くが亡くなったともいわれる。1947年ごろから、抑留者たちは「俘虜用郵便葉書」と呼ばれる往復はがきを使い、日本の家族に宛てて手紙を出すことを許された。劇中、その「俘虜用郵便葉書」が大スクリーンに投影され、男性のコロスたちが収容された日本兵たちの手紙を、女性のコロスたちが夫や息子の帰りを信じる妻や母親たちの手紙を朗読する場面がある。

 

厳しい検閲を受けるため手紙には詳しいことを書けないが、行間から、「生きて故郷へ帰ることを目指した日本兵たちと、帰りを待ちわびながら厳しい時代を生きた家族たちの物語」がいくつも浮かび上がってくる。

 

カーテンコールの際に天井から降りてきた「約束の果て」というタイトルは、赤い千羽鶴で作られている。もともとヨリコジュンのアイデアで出演者、スタッフや関係者たちで折り始めていたが、舞鶴で海上自衛隊舞鶴音楽隊のリハーサルがあった際、舞鶴市から「協力します」との申し出があり、舞鶴の人々をはじめ作品に関わる人たちがみんなで心を込めて折ったものとなった。

 

日本が誇る声優たち、コロス、照明や音響や音楽担当者らをはじめとするスタッフたち、海上自衛隊舞鶴音楽隊、そして、舞鶴の人々が協力し、トップクラスの技術を駆使して作り上げた本作。終戦から80年以上が過ぎた今だからこそ、日本人が忘れてはならない、そして受け継がねばならない歴史があることを感動と共に届けた。

 

文:竹内みちまろ