放送中のTVアニメ『私を喰べたい、ひとでなし』音楽連載企画第9回！音響監督・納谷僚介、作曲家・井内啓二、Yuqi（UQiYO）の対談インタビュー後編が公開！： MusicVoice Letter

TVアニメ『私を喰べたい、ひとでなし』音楽連載企画「私が聴きたい、うらばなし」第9回：納谷僚介（音響監督） × 井内啓二（作曲家） × Yuqi （UQiYO）［後編］

現在、放送中のTVアニメ『私を喰べたい、ひとでなし』。その魅力に迫るべく、本作の制作関係者たちによるインタビュー連載企画「私が聴きたい、うらばなし」！第9回は、音響監督・納谷僚介に加え、音楽を手掛ける井内啓二とYuqiに作品の魅力を語ってもらった。

――本作の劇伴制作はフィルムスコアリング（編註：決められた尺、展開に合わせて劇伴を作っていくこと）で進められたそうですね。

納谷　結果的にそうなった、というのが実情ではあるのですが、願ってもなかったことです。劇伴のワークフローについて触れておくと、多くの作品では音響監督が劇伴作家に向けたメニュー表を作成します。メニュー表はシナリオをもとに、このシーンではこういった劇伴を流したい、と具体的な指示を書き込んだものです。ただ、『わたたべ』は原作の行間や余韻、雰囲気が軸になる作品だと感じていたので、シナリオ段階だと何にも判断ができなかったんですね。たとえば、「雨が降る」というト書きがあったとして、シナリオ上では一行でも、『わたたべ』であれば30秒ほど描いてもおかしくないわけです。となると、最低でもコンテが届くまで判断ができませんし、いつも通りにメニュー表を書いてしまうと、実制作でエラーが発生する可能性が高かったんですよね。なので、序盤からフィルムスコアリングにしたいと言い続けていたところ、諸般の事情でそれが実現して。

井内　私も、願ったり叶ったりでしたね。『わたたべ』の劇伴を従来の方式で書いていたとしたら、キャラクターの心情にあまり寄り添えないBGM寄りの音楽に仕上がってしまうことが予期されていました。フィルムスコアリングであればそういった事態も起こらず安心できるなと。映像を見ながら曲を書くことで、より臨場感と没入感のある楽曲が作れた気がします。

――その中でも印象的な楽曲についてお教えください。

井内　「波の唄」ですかね。僕が『わたたべ』で二番目に書いた曲なのですが、海の中に落ちていく比名子の様子にリンクするよう意識して制作していて、それが第1話の冒頭の映像に重なり台詞と効果音が入ったとき、『わたたべ』というアニメはこの方向性の音楽演出で間違っていない、と現場の皆様と答え合わせができたように思えて。その体験がとても印象的でした。

納谷　個人的には「青色に染められた日」ですね。汐莉の感情にピタッとハマっていて、とても良い印象がありました。本当は第10話や第12話で流れる劇伴についても触れたいのですが……まだ語れず、残念です。

Yuqi　僕が関わった曲だと、PVでも使用された「愛し子」が印象的です。終盤のエピソードでも流れると思うのですが、僕としては幽霊っぽく、人間らしさを出さないように歌うことを念頭にレコーディングしていました。その意図が伝わってくれると嬉しいですね。

井内　そういえば、PVが出たときに海外の人からSNS上で何通もDMが届いたんですよ。「あのボーカリストは誰なんだ！」って。日本語の歌詞にも関わらずそれほどに受け入れられる楽曲になって、感無量です。

納谷　歌入りの楽曲も行ける、という決断は間違っていなかったですね。

Yuqi　良かった……！　嬉しいです！

――楽曲が完成してから、ダビング作業が進められたかと思います。ダビング作業は、かなりスムーズに進んだのでしょうか？

納谷　劇伴ができてからは、とてもスムーズでしたね。他の作品だと「ここの楽曲がない！」とか「このシーンに合うイメージの劇伴がないんだよね……」みたいな問題が起きがちなんです。でも、今回はフィルムスコアリングでしたし、そんなことは起きず。

井内　フィルムスコアリングが全ての作品でできない事情も分かるんですけど、こと『わたたべ』では実現できて本当に良かったです。

納谷　『水戸黄門』のように一話完結のお約束がある作品は、むしろ従来の劇伴発注が適しているんですけどね。『わたたべ』のようにシリーズを通して一つのお話になっている作品には、絶対にフィルムスコアリングが適しています！葛谷（直行）総監督や鈴木（裕輔）監督からも音響面はかなりお任せいただけていたこともあり、かなり満足の行く出来になりました。

――そんな『わたたべ』終盤のエピソードにおいて、皆さんが推したいポイントはどこですか……？

Yuqi　クライマックスのシーンがとても大好きなんです。あの禍々しさに、絶妙な曲が付いていて……。何度も観るほど好きなシーンなので、ぜひ注目していただきたいですね。

井内　これから放送されるエピソードで、とある挿入歌が流れるシーンですね。視聴者の皆様は、おそらく最初は比名子と汐莉の心情と物語の行く末に注目していると思いますので、挿入歌の歌詞まで意識しないと思います。劇伴としてはその方が物語に集中していただけるのである意味では本望なのですが、後々発売されるサウンドトラックでぜひ歌詞も確認していただきたいですね。実は歌詞がダブルミーニングになっていたり、比名子と汐莉のそれぞれの視点で聞いていただくと受け取り方が全然違って聞こえたりすると思います。本作においてはキャラクターの感情はもちろん、情景や時間軸なども繊細に物語が構築されているので、フィルムスコアリングを多用した結果、それらの機微な変化に寄り添う音楽を書けたように思います。最終話をご覧いただいた後には、是非とも第一話を見返していただきたいですね。音楽面だけをとっても、台詞や脚本以外にも本当に様々な角度で細かな演出がなされているので、より本作の世界観により一層浸っていただけると思います。

納谷　ここまで劇伴についていろいろと触れてきましたので、音周りの別の観点から。『わたたべ』には音響効果として斎藤（みち代）さんにご参加いただいています。斎藤さんのお仕事は、効果音を付けることです。個人的にも斎藤さんには十年以上前から音響効果をお願いしたいと思っていて……。諸事情でアニメ制作現場を離れられていたのですが、数年前から復帰されたのでぜひに、と本作をお願いしました。特に『わたたべ』では波や風、雨など効果音に頼る場面も多い作品で、斎藤さんがいなければ狙い通りの繊細な音が付けられなかったと思います。声優さんのお芝居はもちろんですが、ぜひ二周目、三周目と『わたたべ』を見返す際には、効果音まで意識して聴いていただけると嬉しいですね。

――そういった部分まで、可能であれば良い音響で聴きながら観ていただきたいですよね。

納谷　セリフ、劇伴、効果音と、欠けてはならない三者を録音調整の徳久（智成）さんが絶妙なバランスに仕上げてくださっていますからね。スマートフォンで観ることも少なくない時代ですけど、叶うならBlu-ray版をいい音響環境で再生いただきたいです。この作品は繊細に音楽面を構築しているので、そこにもぜひご注目を！アニメ『わたたべ』がどんな着地をするのかは原作ファンの方々も楽しみにされているかと思います。比名子と汐莉がどういった未来を選ぶのか、ぜひ見届けていただけると幸いです。

取材・執筆：太田祥暉

作品情報

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少女と妖怪の出会いを美しくも切なく描いた原作・苗川采による「私を喰べたい、ひとでなし」が2025年10月2日よりTVアニメ好評放送中!!

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